帝京大学FDフォーラム 基調講演
6/27/2011
経済学科
松井範惇
1.若干の自己紹介
- 1977-83: Graduate Teaching Associate at the Ohio State University, Columbus, OH
創立 1870年、学生数46,500 (うち、院生約8,000), 教員数約3,000 - 1983-99: Kenyon College, Gambier, Ohio (1824, 1600 students, 160 faculty)
Denison University, Granville, Ohio (1831, 2160 students, 210 faculty)
Earlham College, Richmond, Indiana (1847, 1200 students, 100 faculty)
2.FDとは何か
-
a.
文部科学省:「教員が授業内容・方法を向上させるための組織的な取組の総称」
-
b.
一般的な定義:
- 広義のFD
- :大学教員の資質・能力の向上。研究や人生設計をも含む全体的な職能開発。
つまり、AP. CP, GPにかかわるもののすべて
- 狭義のFD
- :大学教員の教育能力の開発と向上。
-
c.
- 内容
- :新任教員研修会、一般的な教員研修会
教員の授業参観、教員による授業評価、授業検討会
FD講演会、委員会やセンター等の設置、その他の学内組織の設置
- 「隔靴掻痒」(松井の感想)
- 「単位の実質化」、「講義・授業の改善」、「教育能力の向上」、「成績評価の厳正化」これらの言葉が “空疎、虚ろ” に響くのは、なぜでしょうか。
- 各項目が別々で、システムとして機能していない。
- 教員にも学生にも、インセンテイブがない。(だから、「何とかしてお茶をにごす手はないか」と考える)
- 結果が見えない。
3.国際開発における知の位置付けと知識経営論
PISA, OECD高等教育部門:
コンピテンシー:(定義)知識や技能だけでなく、自発的にさまざまな心理的、社会的なリソースを活用し、特定に文脈の中で複雑な課題に対応できる力。
- キー・コンピテンシー:
-
- 自立的に活動すること「生きる力」
- 社会的に異質な集団で交流すること
- 道具を相互作用的に用いること(読解リテラシー、数学リテラシー、科学リテラシー)
キャパシティー:(定義)個人・組織・社会が総体として、期待される役割を果たし、問題を解決する、目標を設定して達成する自立発展的な能力。
90年代の「援助国主導型」援助の反省から、途上国の政府・組織・人のオーナーシップに基づく問題解決、課題対処能力向上のプロセスを支援するのが、援助の中心的役割であるという、capacity developmentの議論が広がった。
Capacity to commit & engage
adapt & self-renew
balance diversity & coherence
relate & attract
carry out technical, service delivery & logistical tasks
知識経営論からの知のダイナミズム(野中郁次郎)
- 暗黙知:
- 言語・文章で表現するのが難しい主観的・身体的な知;特定の文脈で反復と経験によって具体化される思考スキル
- 形式知:
- 文章で表現できる客観的・理性的な知;特定の文脈に依存しない一般的な概念や論理
「形式知と暗黙知の連続系」としてのダイナミズム——> ドラッカーの「相互学習と協働へのドライブ」
松井「大学は知的コミュニティー形成の場」:
つまり、「知的好奇心」と「共に学ぶ態度」の共有から、相互の向上を目指すところ
4.私の実例、経験から
-
GLCA, Teaching & Course-design 研修会(ワークショップ)(4泊5日、17-20人)
ワークショップ方式、4〜5人のリーダーに13〜14人の参加者
24大学のコンソーシアムから、教歴、年齢・性別、専門分野でさまざまな教員
学生寮に泊まり込んで、終日、さまざまなアイデアを出し合い、経験を交換
ミニ授業(5分)、ビデオ撮影、全体討論と小グループ・デイスカッション
試験の仕方、プリント配布の配り方、喋り方、学生への質問の仕方
学生の興味を持続させる方法、採点時の注意、学期中の教材の配分方法など
年に2回、テーマ別のものもある(例、ジェンダー研究、国際研究、Black Studiesなど)
参加は自由、希望者のみ。参加費用は、各大学がFD委員会から負担
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テイーム・テイーチング
“Economic and Political Development of the Pacific Rim” with Prof. Maria C. Morgan、Earlham College
2年間、秋学期に実施。学生は全学から、20名前後。
完全に、両名が共同で実施。シラバス作り、教科書、参考文献、議論、論文の採点、成績評価も2人で合議して決定。準備は大変。FD委員会から準備のための費用が出た。
時々、授業中に私とモーガン教授が学生の前で「論争」をした。
私にとっても、とても勉強になった。研究のテーマも発見した。
(日本の大学で行われる「オムニバス授業」ではありません。)
その学期、開講科目数は一つ減るが、問題ない。
-
試験問題を授業時間中にグループで作らせる
5〜6人の小グループに分けて、教科書の一定の範囲(すでに議論を終わった部分)を担当させる。各グループから2−3問、自由に作らせる。各グループに書記係とまとめ役を決めさせて、書記は、授業の終わりに作った問題を書いて出させる。
翌週に、私が学生の作った問題を整理して、10〜15問、全員に配布し、試験の一部はその中から出ることを告げる。どれが出るかは分からない。
中間試験の場合は、翌週の返却のとき、解答例をコピーして全員に配布。期末試験の一部は、中間試験の中から(ほとんど同じ問題や若干の変形問題)出すこともする。
試験問題作りをする週は、前もって学生に告げておく。
-
完全無声授業
授業の進行指示書を全員に配る。
当日のテーマ、時間配分、小グループの作り方、書記、まとめ役を選ぶこと、それらの仕事、全体での報告の仕方、私への質問に仕方、などを指定。
そして、当日は「松井は今日は声が出ません」と書く。
グループごとに、歩いて質問を受けて、書いて答える。共通する質問には、黒板で答える。
——>この授業方式は、極めて有効。当日、眠る学生は0。質問は続々と出る。
学生の当日の感想は、「今日はよく分った、面白かった」というのが圧倒的です。
1学期にせいぜい2回。冬の風邪のシーズンに、マスクをしてやるのも良い。
10数年前に、実際に声が出なくなり、その日、1日3科目にわたって完全無声授業を実施。その後は、年に1〜2回、「声なし授業」をやっています。
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40人対40人(大規模)のデイベート
3〜4週間前くらいから準備、テーマは学生に選ばせる。
ProとConを選ばせて、論点を整理させておく。
議長団を3−4人、手を挙げさせておく(または、私が指名)。
双方から、あらかじめ3−5人の発表者、論争者を決めておく。
論争になるような提示の仕方を学び、論駁者が双方から出てくるようにするが、出てこないときは教員が指名する。
時間は30-40分程度で終結させて、最後にどちらのサイドの論点が受入れられたと判断するかは、議長団が相談して決める(議長団に決めさせる)。
-
お絵描き、(文字を一切使わないで、イメージを伝える。10-12程度をコピーして、次週に発表させる)教科書の範囲を指定して、そこの中から感想、疑問、学んだことをイメージで表現させる。10-15程度を使わせる。
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1992年、ソマリア飢饉の最中、全く新しい授業をデザイン。
最初の5週間で、開発経済学の教科書と、アマーテイア・センの “Poverty and Famine” を読み終え(週3日)、残りの10週間でソマリアで何が起きているか、国連、米国国務省、カナダ、イギリスの雑誌社、新聞社、通信社と密接に連絡を取り、情報収集。学生5人。
私も含め、論文集を作成。
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小論文、報告、書評、カントリー・レポート、Ethnographic Report:
最終締め切りは厳守。しかし、前もって提出すれば、何回でも添削する。
講評して返却、書き直して提出させる。
成績は最終版で。
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その他、
クラス(授業時間中)で教科書、副読本作り
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3分間スピーチ,
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グループ発表、グループ・プロジェクト、Ethnic Interview Report
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出席票の裏に、その日の授業の感想、質問、疑問、意見など何でも書かせ、翌週に答える。
- FDの要:
- 学生に「自ら学ぶことは面白い」と思わせる、そういう感動、驚きを与える、経験させる。
そのために日常の授業を如何に工夫するか。
「学士課程教育」の真骨頂は、ここにある(松井)。
結局;
- FDとは:
- 授業を学生中心とし、学生の学習成果を上げる、それを見える形にするあらゆる努力と、それらを進めるための大学としての組織的な取組み。
5.アーラム大学の仕組み
PDF (Professional Development Fund) という基金があって、教員も職員も、授業、学生生活の改善のためのプロジェクトを提案すると、年間$3,000までの自由に使えるお金がもらえた。Dean がPDF委員会と合議で審査して決定。
Teaching Consultant (教歴20年以上で、学内で学生に評判の教員が、2年交代で担当):教務担当副学長の直属となるが、独立して教員の相談に乗る。授業に出て、改善策を一緒に考えたり、シラバスの作成を手助けしてくれる。テニュアー審査直前の教員には、とてもありがたい存在。2年間、担当科目負担は半分になる。
テニュアー審査や2年審査、5年審査の教員評価には、在学生、卒業生、他学部、多学科からの教員が参加して委員会を形成。町の関係者からの推薦書も有効。
テニュアー審査に通るまでは、2年審査で、これに通らないと次年度の契約はない。テニュアーをとると(准教授に昇格)、以後は5年審査で、これは改善評価で、知的な活発さ(Activeness)と授業の (Effectiveness) が重視される。
新しい教材の開発や使い方、新しい科目の開発に、教員が自発的に取り組むときに、PDFから資金を提供する。
- Faculty Evaluation(Earlham College)
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- Teaching Effectiveness
- Intellectual Activeness
- Community Contribution
- Congruency
- Cf.:多くのResearch Institutionの教員評価の基準:(大学によって、これらの比率が異なる。)
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- Publication
- Classroom Teaching
- Contribution to University Community
- 「これは大学の授業だから、皆が喋りなさい。」(松井)
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- そのためには、シラバスにある通り、reading assignmentを読んでくる。
- 発表者、報告者のあるときは、準備してくる。
- 討論者(予定されていても、いなくても)は準備してくる。疑問を出し合う。
- 宿題を提出する。
- 教員は、前回の宿題、採点し、コメントしたものを返却し、講評する。
- 新しい宿題を出す。
- スピーチや小論文のテーマを書いて出させる。
- 成績は、学生が自分で決めるもの。
- 質問した人は、儲ける、得する、忘れない、理解が深まる。
(翌週、確認してから質問する ——> 忘れてしまい、2度としない。「今という時は、2度とない。」)
6.ご参考に
松井範惇『リベラル教育とアメリカの大学』ふくろう出版、2004
「アメリカの大学教科書」『大学出版』No.62,2004年9月「内側からみたアメリカの大学1教科書と教材:多彩な教科書がなぜ次々と開発されるのか」『カレッジマネジメント』No. 126, May-Jun. 2004,
「内側からみたアメリカの大学2シラバスの役割:良い授業はシラバスで決まる」『カレッジマネジメント』No. 127, Jul-Aug. 2004
「内側からみたアメリカの大学3教員採用とテニュア審査:そこにかける莫大な労力と努力を惜しまない」『カレッジマネジメント』No. 128, Sep.-Oct. 2004
「アメリカの大学アドミッションとアドミッション・オフィサーの新しい課題」『大学評価・学位研究』第10号、2009年12月
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20070713us41.htm